映画を書くと頭が疲れる

観るものです。

『ゴーストライター』(2010年)感想・ネタバレ

監督:ロマン・ポランスキー


冒頭、連絡船が港に近づいて来るショットにやたら不穏な劇伴が重なっている。何がそんなに不穏なのかよく分からないまま観ていると船が着く。それから船員の誘導で船から波止場へ次々と車が出て行く。間も無く、そこに一台だけ動かない車があるのに気がつく。中に人は乗っていないようだ。船の降車場に取り残された車が牽引され運ばれていく。
浜では、転がる男が波に洗われている。
あの男は死んでいると思う。


f:id:stevenspielberg:20180705165904p:plain

この映画は上記冒頭がとにかく格好良いです。
何の基準にも照らされていませんがパーフェクトです。「第一死体登場までの冒頭のシークエンス」は、世の映画に沢山あると思いますが、これはそれらの中でも飛び抜けて格好良いやつです。


映画紹介文でのジャンルは政治スリラーになっていますが、
「元英首相の自叙伝を書いていたゴーストライターは、ある重大な秘密を掴み、自叙伝にその秘密を紛れ込ませた。その後、彼は殺された。そこへ自叙伝を完成させるという名目で新しいゴーストライターが雇われる。自叙伝にどんな秘密がどのように隠されているのか、新しいゴーストライターはその秘密に気がつくのか。秘密を抱える人々は彼の様子を伺う。何も知らないゴーストライターは執筆を進めるうちに、少しずつ元ゴーストライターの死因に迫っていく。そしてついに自叙伝に隠された秘密を暴くが、その直後に彼は殺される。」
だいたいこんな話です。

元英首相役のピアース・ブロスナンのキャスティングに違和感があって、何でピアース・ブロスナンなのだろうと思っていたら、彼が実はCIAという話しになり、なるほどジェームズ・ボンドが実はCIAというのがやりたいがためのピアース・ブロスナンかと合点がいったのですが、主要な配役で笑いを取りにいく時点で「スリラー」の部分もどこかへ行ってしまっています。
とりあえず、この映画は政治スリラーではないです。

『ナインスゲート』(1999年)もジャンルはオカルト・ホラーとのことですが、ジョニー・デップの演技はコメディのそれですし、『ゴーストライター』もそうですが、やたら軽快なテンポで出来事が進行していきます。イギリス人狙い撃ちのブラック・ユーモアはさておき、声は聞こえないけど窓の向こうですごく怒っているピアース・ブロスナンユアン・マクレガーと一緒に見るだとか、漁師宿にメイド喫茶のメイドみたいなフロントスタッフ(メガネっ娘)がいるだとか、船着場近くの宿のフロントマンの絡みが鬱陶しいだとか、これらのとぼけたというか、敢えて外しにいく語り口は『ナインスゲート』もそうでしたが、ポランスキー監督の持ち味なのでしょうか。
映像詩的なシークエンスで始まった映画は、物語が語られだすとコミカルまでは振れないけれど、わざとシリアスを脱臼させていくような独特の語り口で進んでいきます。ただ、ロケーションもショットもハイセンスなので、オフビートでジャンルレスな不思議な感触の映画になっています。

f:id:stevenspielberg:20180705165953j:plain

ちなみに、主人公のゴースト(ユアン・マクレガー)は、国籍不詳なオフシーズンのリゾートアイランド(設定では米国)にやって来て、蒸留酒を飲み、気軽に女と寝て、ときどきサンドイッチを食べるという、巷で言われるところの村上春樹氏が書く主人公にとてもよく似ています。なんなら街で突然暴漢に襲われたりもします。
まだ色々観ている途中ですが、ポランスキー監督の映画は近作が好みです。