映画を書くと頭が疲れる

観るものです。

『東京物語』(1953年)を見てみた。

監督:小津安二郎

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最近、神話系映画を立て続けに見ているので、少し気分を変えようと思い、『東京物語』を見てみました。神格化されている、と言っても過言ではない監督の代表作なので、どのタイミングでこの映画を見るかは、密かな課題だったのですが、努めて何気なく見てやりました。

前情報無しで見たので、「切り返しショットが多用されるサザエさん」ぐらいの、漠然としたイメージで見始めたのですが、冒頭の(終盤にもある)、まるでパルテノン神殿でも撮っているかのような風景の固定ショット(巨大建造物をギリギリ画面に納めたかのようなショット)の数々に度肝を抜かれ、もしかするとこれも神話系映画かもしれない、と早々に気持ちを改めました。


あらすじ

広島の尾道からおじいさんとおばあさんが上京し、東京で暮す長男と長女と、紀子に会う。みんな忙しく、そうそう相手も出来ないまま日が経ち、長女に頼まれた紀子が、仕事を休んで東京見物に連れ出す。その後、おじいさんとおばあさんは熱海旅行へやられるが、熱海の旅館は賑わいすぎで落着かなかったため、二人は一泊だけして東京に戻り、おじいさんは東京にいる旧友に、おばあさんは再び紀子に会い、尾道へ帰ることにする。その帰途、おばあさんの具合が悪くなったため、大阪の三男の家で療養する。
その後、東京の長男のもとに、おじいさんから無事帰り着いた報告と、世話になったお礼の手紙が届くが、長女のもとには尾道にいる次女から、「ハハ、キトク」の電報が届く。すぐに長男のもとにも同じ電報が届き、長男と長女と紀子は尾道へ行く。翌朝、おばあさんが亡くなる。遅れて三男が到着し、皆で葬式。葬式が終り、紀子以外みんな帰る。しばらくして紀子も帰る。


屋内は、ほとんどがゴロ寝アングルの固定ショット(ローアングルの固定ショット)。これは床に転がって、家の中を忙しく立ち回る母親をぼんやり眺めていた子どもの頃を思い出す、妙に落着くショット。
そして有名な、切り返しショット。
冒頭で触れた、ど迫力の風景ショット。
ほとんどこの3つのショットで出来ている映画でした。

まったくカメラは動かないのだろうか、と気にしていたら、物語の中盤で宿無しになったおじいさんとおばあさんが上野かどこかで座り込んでいる姿を見つけるために、一度だけ横移動しました。
あとは、おじいさんが家の窓から見る、おばあさんと孫が土手で遊んでいる様子を捉えた遠景の固定ショットや、熱海の堤防の上を歩く、おじいさんとあばあさんを斜め上から捉えた遠景の固定ショットがありました。これらは夢の中のように、土手や堤防が抽象化されていて、心象風景みたいでした。

有名な切り返しショットですが、とても驚いたものがあったので書き記しておきます。
それは、大阪の三男の家で療養していたおばあさんの具合がすっかり良くなって、おじいさんと会話をする場面にあります。

おじいさん「(省略)-よっぽどわしらは幸せな方じゃのう」
おばあさん「そうでさぁ、幸せな方でさぁ」

おじいさんからの切り返しショットで、おばあさんは上記の台詞を言った後に頭に手をやり、髪を直す仕草をします。それを見た時、(この人、死ぬんだな)と気づいて、悲しい気持ちになったのですが、何で今の仕草を見てそう思うのか、思った直後に驚いたので考えてみました。
結論は、台詞の後に付け足されたおばあさんの仕草が、おじいさんの思い出に見えたからです。その、ふと思い出したかのように付け足された仕草が、死んだ人を思い出しているようなのです。それは、カットを割らず、フラッシュバックを挿入するという、文章で書いたら俄かには信じ難いショットです。それまでの振りなり、タイミングなりが積み重なって、そのように機能したと思うのですが、それがどうやったら出来るのか、全部見たのに全然分からない。

切り返しショットについて、主観や対立を表すぐらいの拙い理解しかなかったのですが、このような表現が可能なことに驚かされました。
また、こういうショットは現実に影響を及ぼしますよね。この後、近しい人の仕草にふと目がいった時に「死」が過るようになるやつです。

映画が始まっても、しばらく紀子さんが何者なのか分からず、遺影が映ることによって彼女の正体が明かされること。人物のいる建物の外観は映されず、外の景色は、主にど迫力の風景で示されること。おじいさんが死んだ次男の話しをする時、少し伏せた顔に影が覆い表情が分からなくなる怖ろしい演出。これってどう評価されているんだろうと不安になるほど、無邪気で明快な、木魚の音をバックに、死と相対した三男の顔と墓場を切り返す身も蓋もないショット。

見る前は、素晴らしいのだろうけど、今見たら地味な映画かと思っていたのですが、派手な画も多く、かなり個性的な映画でした。