みんな映画になる

眠那影俄仁那琉

『回路』(2001年)は「ビンに封じて海や川などに流された手紙」ですよね

このことについて書いている人を見かけたことがなかったので、一応書いておこうと思います。私たちは岸辺にいて、とあるビンを拾います。 そこには手紙が入っていて、書き出しはこうです。 「ある日それは何気なく、こんなふうに始まったのです」 そして結び…

『LOFT』を書くにあたって、黒沢清の考える「映画」について

『LOFT』を後々一本の記事にまとめるつもりで資料に当たっています。 この映画に関しては、黒沢清監督がデイヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』(2001年)をあげて「デイヴィッド・リンチもああいうのをやっているんだから、(自分も)やって…

『アカルイミライ』(2003年)少女の夢が増える時

監督:黒沢清この映画は、社会に染まりきって何の疑問も持たず安寧に暮らす上の世代に反発を抱いていた若者が、友人の父親と関わることで少しずつ反発心が瓦解し、彼らに続いてこの社会で生きていくのも悪くないと、自身を取り巻く世界を受け入れる萌芽を描…

『CURE』(1997年)映画という永劫回帰、そして超人へ

監督:黒沢清 ちょっと前に久しぶりに『CURE』(1997年)を観た。なんとなくまた色々考えたので書いてみようと思う。過去の記事と矛盾する部分もあるが、今思っているところを記録するのが目的なので矛盾は矛盾のままにしておく。 高部が最終的にどうなったの…

『最後の決闘裁判』(2021年)感想・ネタバレ

監督:リドリー・スコット カルージュ(マッド・デイモン)、ル・グリ(アダム・ドライバー)、マルグリット(ジョディ・カマー)、それぞれの視点で事実は描かれるが、それぞれの真実は異なる。真実を社会に問えば、その社会構造における弱者の主張する真実…

『レヴェナント:蘇えりし者』(2015年)感想・ネタバレ

監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 公開中に観ようと思っていて、なんだかんだで忘れていてアマプラ特典にラインナップされていたので先日観ました。 映画館で観れば良かった!エマニュエル・ルベツキの撮影が凄まじかったですね。冒頭からアク…

『スパイの妻〈劇場版〉』(2020年)感想・ネタバレ

監督:黒沢清『スパイの妻』を見て、黒沢清監督の映画をそれなりに真剣に見てきた人はなにが気になっただろうか。 そんなことが気になる。 とにかく、私は色々気になった。主演の二人のクラシカルなスタイルの演技は今までの黒沢映画には無かった試みだ。あの…

『旅のおわり世界のはじまり』(2019年)感想・ネタバレ

黒沢清監督の『叫』(2006年)で、主人公の男(役所広司)がいよいよ前後不覚に陥り、女がすでに死んでいることにふと気がついた時、なぜだか「そりゃそうか」という気持ちになった。 前後不覚になるほど男が苦悩する世界では、とっくに女は死んでいる。それ…

『AKIRA』(1988年)感想・ネタバレ

監督:大友克洋2018年の年末ということで、『AKIRA』を久しぶりに観ました。 来るべき2019年。ネオ東京。ドーン。 前々から思っていたのですが、金田って何者なんでしょうか。 金田は主人公なので、あらゆる場面に登場して行動を起こしますが、彼の行動によ…

『エクソシスト』(1973年)感想・ネタバレ

この記事は、『エクソシスト/ディレクターズ・カット版』を見て書きました。監督:ウィリアム・フリードキン この映画には因果が描かれない。 物語は、偶然の一致で繋がっている。 超自然的な偶然の一致の数々を知るのは、登場人物の誰でもなく、鑑賞者であ…

『回路』(2001年)枠と鏡のシステムと視線の行く先

監督:黒沢清 「ある日それは何気なく、こんなふうに始まったのです」映画冒頭のミチ(麻生久美子)のモノローグ。「こんなふうに」とは、彼女の同僚田口(水橋研二)の自殺を指している。田口の家の中に、黒沢監督映画に頻出する半透明のビニールの間仕切り…

『A.I.』(2001年)について

監督:スティーヴン・スピルバーグ 3千年紀の始まりに公開された、母の愛を求める少年型ロボットの冒険物語について、私はまだ何も理解していない。 この映画は、「ピノキオ」がストーリーの下敷きになっていると言われているが、それがカルロ・コッローディ…

『ブレードランナー』あらすじ・解説

監督:リドリー・スコット『ブレードランナー2049』(2017年)が間もなく公開されます。ということで、SF映画の金字塔『ブレードランナー』を見直してみようと思います。 はじめに この映画は、「リサーチ試写版(ワークプリント)1982年」「オリジナル劇場…

『東京物語』(1953年)を見てみた。

監督:小津安二郎 最近、神話系映画を立て続けに見ているので、少し気分を変えようと思い、『東京物語』を見てみました。神格化されている、と言っても過言ではない監督の代表作なので、どのタイミングでこの映画を見るかは、密かな課題だったのですが、努め…

『CURE』(1997年)を見直してみよう No.4 最後に高部はどうなったのか

黒沢清はイングマール・ベルイマンに似ているとよく思う。 黒沢清の著作物や、黒沢清について書かれた本の中で、ベルイマンについての記述を読んだ覚えはないが、(『恐怖の対談―映画のもっとこわい話』(青土社 2008年)で、テオ・アンゲロプロスがベルイマ…

『クリーピー 偽りの隣人』(2016年)について

監督:黒沢清 ネタバレあります。お正月休みに『ヴァンパイア/最期の聖戦』(1998年)を見ていて、『クリーピー 偽りの隣人』が吸血鬼映画だったことに遅ればせながら気づいたので書いておく。 以下は、『クリーピー 偽りの隣人』と吸血鬼映画の分かりやすい…

『叫』(2006年)感想・ネタバレ

監督:黒沢清 黒沢清監督作品については色々とこのブログで書いていますが、『叫』は観ていませんでした。いいタイトルです。まるで名作古典映画のようです。 コンクリの壁から葉月里緒菜さんがコンニチハしている写真をどこかで見て、コメディなのかなと思…

『CURE』(1997年)を見直してみよう No.3 沢山の病院とタイトルCUREの意味

監督:黒沢清 CUREという言葉には、癒す・治療するなどの意味がある。 なぜ、この言葉が映画のタイトルになっているのだろうか。まずは、癒しや治療を担う機関である病院とCUREについて書いていきたい。 とにかく病院が良く出てくる映画である。 以下に、『CU…

『CURE』(1997年)を見直してみよう No.2 都市のランドマークと猿のミイラ

監督:黒沢清『CURE』のレビューを読んでいると、映画の雰囲気が前半部と後半部で違う、という印象を持った人が少なからずいることがわかる。 実際『CURE』の後半部は、前半部に比べ短いショットが多くなり、ショットや場面のつながりが分かり辛くなり、ロケ…

『CURE』(1997年)を見直してみよう No.1 間宮の催眠術とXの印

監督:黒沢清 前回の記事で、『CURE』について書かない、と書いたが書くことにする。 前回の記事以降も『CURE』について考えていたら、映画の中で描かれていることで、具体的に説明できる事柄がいくつかあることに気づいた。 具体的に理解したところで、映画…

『未知との遭遇』と『CURE』、そして『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』について

今、集中してスピルバーグ監督作品を観ているのですが、全監督作品観賞の道は険しいです。『1941』(1979年)や『カラー・パープル』(1985年)や『オールウェイズ』(1989年)あたりに手が伸びないです。逆に『未知との遭遇』(1977年)や『A.I.』(2001年…